
注目される「企業内検索」 その必要性や価値は?米国Glean社のサービスについてもご紹介
2025/05/26
日々、TeamsやSlack、Zoomなど様々なコミュニケーションツールや、OneDrive、box、SharePointなどのファイル管理ツールを併用して業務を進められているという方も多いのではないでしょうか。
そのような場合によくあるのが「探したい情報がどこにあるか分からず苦労する」という問題です。企業内検索(エンタープライズサーチ)は、このような問題を解決します。近年では、AI活用の観点でも、企業内検索の仕組みが重要となっています。
今回は、企業内検索について詳しくご紹介します。
目次
企業内検索が提供する価値とは?
企業内検索、もしくはエンタープライズサーチとは、企業内のデータを保管場所を問わず横断で検索できる仕組みのことです。
企業内のデータは、社内のファイルサーバーやメール、チャット、イントラネット、クラウドサービスなど様々な場所に点在しています。これらの中から必要な情報を探すことは簡単ではありません。
企業内検索の仕組みにより、社内のデータを横断的に検索できるようになれば、情報を探しやすくなり、またデータの活用も進めやすくなります。
企業内検索が注目される背景
企業内検索という考え方自体は古くからあるコンセプトではありますが当時はネットワーク負荷や性能面で普及には至りませんでした。しかしながら近年、Officeソフトウェアやプロジェクト管理ツール、コミュニケーションツールなど様々なシステムがSaaS化されたことで、改めて企業内検索に注目が集まっています。
SaaS上で業務情報を取り扱う機会が増えたことから、情報が点在化し必要な情報を探すために時間が掛かるようになった一方で、SaaS同士を接続することで効率的なデータ収集も可能となっています。
加えて、大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)といったテクノロジーも登場しており、単にデータを横断検索するだけでなく、適切な形でアウトプットすることも可能となっています。
結果として、ワードマッチングによりデータを原文のまま出力する、単なる「探し物」の仕組みではなく、企業内に蓄積された信頼性が高い新しいデータをベースに、検索者の検索目的や意図、文脈を理解した回答が得られる仕組みを提供できるようになりました。
RAGにおける社内情報の活用も進展
最近では、生成AIの利用においてRAG(検索拡張生成)により社内データを活用するケースも増えています。
RAG(検索拡張生成)は、社内データなど生成AIが保持していない情報源を活用し、生成AIの出力へ反映させる仕組みです。
あるアンケートでは、生成AIの活用を促進するために必要なことについて「社内データ連携(RAG)」が1位となるなど、RAGは注目の技術といえるでしょう。GartnerハイプサイクルでもRAGがトレンド入りしており、2年以内に普及すると予測されています。
RAGを実装するためには、社内データを収集し、ユーザーの意図に合わせて必要な情報を検索・抽出する必要があります。たとえば、「休憩時間はいつからいつまで?」といった質問を生成AIに行う場合、自社の就業規則などから関連する情報を検索し、生成AIへとインプットしなければなりません。企業内検索の仕組みがあれば、このような情報の検索や生成AIへのインプットも容易となります。
なぜ企業内検索が必要なのか
以下では、企業内検索の必要性について、より詳しくご紹介します。
社会背景
ひとつは、2030年問題をはじめとした社会背景にあります。生産年齢人口が減少するなか、企業においては少ない人員で高い生産性を実現しなければなりません。
このような中、生産性向上に有効となる様々な仕組みが求められています。企業内検索は、そのための仕組みの一つとなりえます。
海外トレンド
近年、海外におけるトレンドとして「DEX」という概念が注目されています。DEXとは「Digital Enhanced eXchange」の略称であり、日本語ではデジタル従業員体験と訳されます。
DEX向上のために、デジタルを活用して従業員の満足度や生産性を高める仕組みが必要です。企業内検索は、社内に点在するデータを素早く探せる仕組みとして、従業員の満足度や生産性を高めることができます。
デジタル疲れ
DXの取り組みにより、様々なツールが導入されていく一方で、様々なドキュメント共有アプリケーションやコラボレーションツールなどを使い分けながら仕事をされているという方も多いのではないでしょうか。
組織内で職位間やチーム間で使用されるツールが異なり、デジタル空間上で分断が発生すると、「あの会話はどのツールでしたのだろう」「XXファイルを置いた場所が分からなくなってしまった」といったように、従業員体験が悪化していきます。
Gartnerのレポートでは社内で利用されているアプリケーションの数が増えるほど、従業員の体験が悪化していくといったレポートもありました。このような「デジタル疲れ」の観点からも、アプリケーション横断型での企業内検索の仕組みが求められます。
仕事のための仕事
仕事に関するやり取りや情報の検索だけでなく、移り変わる優先順位の管理や作業のステータス確認といった「仕事のための仕事」に悩まされている方も多いと思います。
仕事のための仕事を完全になくすことは難しいですが、少なくとも効率化していく取り組みが求められるでしょう。
なお、当社双日テックイノベーション内でアンケートを取ったところ、「仕事のための仕事」の中でも特に、「社内の情報がどこにあるのか分からない」という点が多くの従業員の悩みとなっておりました。実際に当社では、企業内検索とAIにより、このような課題を解決する取り組みも行っています。
企業内検索の一つの選択肢であるGlean
以下では、企業内検索システムの選択肢の一つとして、Gleanというサービスをご紹介します。
サービス概要
Gleanは、エンタープライズレベルで活用できる企業内検索システムです。
検索窓に知りたいことを入力すると、Microsoft 365やbox、Google Workspace、Slack、Salesforceなどの企業で利用しているSaaSシステムを横断的に検索して、瞬時に知りたい情報を探し出すことができます。
Gleanが従来の企業内検索システムと大きく異なるのは、この横断検索の機能に加えてAIアシスタント機能が提供されている点です。検索結果として該当する文書がリストアップされるだけではなく、社内の人やコンテンツ、インタラクションも踏まえてユーザーが欲しい結果を生成します。
特徴・機能
Gleanの主な特徴や機能は以下のとおりです。
150以上のSaaSアプリとの連携が可能
GleanではMicrosoft OfficeやGoogleWorkspace、GitHub、boxなど150を超えるSaaSアプリとすぐに接続ができるネイティブコネクタが提供されます。これらのコネクタを利用することで、自社で利用しているSaaSの横断検索を簡単に実現できます。
なお、Gleanのネイティブコネクタは対象アプリケーションへのアクセス権限を常時取得しています。これにより、ユーザーごとの情報の閲覧可能範囲を考慮した形で横断検索を実現できます。
Gleanナレッジグラフ
Gleanでは、企業内のコンテンツや人・組織、アクティビティの情報を基に、ナレッジグラフを構築します。ナレッジグラフでは、下図のようにデータ同士の関連性を図示しつつ、データの更新頻度や作成者、共有先、閲覧数などを可視化します。
ナレッジグラフにより蓄積したデータの中から、コンテンツの人気度や検索内容との関連性、検索対象者との親和性などに基づきスコアリングを行い、ユーザーに最適な検索結果を提供します。
このようなユーザーごとにパーソナライズされた結果を提供することで、DEXの向上にも寄与します。
生成AI対応のGlean Assistant
企業内ナレッジの検索に生成AIを活用することで、企業内データを活用した結果の出力が可能となります。たとえば、コールセンターにおいてサービス約款から適切な回答案を作成したり、顧客の属性から適切な提案資料を作成したりといったことも可能です。
また、検索結果について詳しい従業員を教えてくれる「レコメンド機能」など、AIアシスタントにより最適な検索結果を生成します。
日本市場を席巻する可能性も
GleanはSequoia Capital、Kleiner Perkinsなど数多くのトップVCからの資金調達を実現しています。直近のシリーズEではSoftbankなどから2.6Bドルの資金調達を成功させました。
Gleanはグローバル市場で半導体、テレコム、銀行など幅広い各業界のトップ企業から選ばれており、急速な成長と幅広い導入が進んでいます。一般的なSaaSは10-20%である平均アクティブユーザー率も、Gleanでは40%を達成するなど導入だけでなく導入後の活用も進んでいる状況です。
Gleanでは今後日本での展開を加速させていく予定であり、注目のプロダクトといえるでしょう。
Gleanが解決できる課題
Gleanが解決できる課題は様々ですが、ここではRAGを素早く手軽に実現できるという観点でご紹介します。
生成AIの活用において注目されるRAGですが、その構築や運用はハードルが高いといえるでしょう。データの蓄積や検索においては情報漏洩がないように権限の確実な設定が必要であ
り、また様々なアプリケーションと接続を行うための負荷もかかります。検索機能の精度向上やモデルのファインチューニングにも多くのリソースが必要です。
システム間をコネクタにより接続でき、セキュリティ面も考慮されたGleanの企業内検索により、これらの課題を解決することができます。
他製品との比較
以下では、Gleanと他の主要な企業内検索製品である「Guru」および「Pryon」とを比較します。※当社調べ
Glean | Guru | Pryon | |
連携SaaS数 | 150以上 | 56 | 非公開 |
パーソナライズされた回答 | ユーザーの行動、役割、企業のコンテキストに基づいて高度にパーソナライズされた結果を提供 | 限定的。チームメンバーの利用履歴に基づく回答を提供 | 特になし |
生成AI機能 | ドキュメント要約や質問回答機能など充実 | ChatGPTベースで提供 | 複数のLLMから選択可能 |
日本展開 | 展開中 | 未展開 | 未展開 |
このように、Gleanは他の背品と比較しても連携できるSaaSの種類や回答など、機能面に有意性があります。また、本格的な日本展開を進めている点においても安心して導入することができるでしょう。 Gleanは、これから企業内検索の仕組みを構築したい企業におすすめであるサービスといえます。
まとめ
この記事では、近年注目度の高い企業内検索について詳しく解説しました。
生産性の向上や従業員のデジタル体験の向上が求められる一方で、日々利用するツールは増え続け、欲しい情報をすぐに探すことができないという悩みを抱えられている方も多いと思います。企業内検索の仕組みを導入し、生成AIとの連携など活用を発展させていくことで、「仕事のための仕事」を削減・効率化することができます。 また、RAGにより企業内検索の仕組みを構築する上では、コミュニケーションデータの蓄積も重要です。
たとえばZoomをご利用いただいている企業であれば、ZoomのAI Companion機能によりWeb会議や音声通話の音声データを文字起こししておくことで、データ活用の幅を広げ ることができます。多くの企業がWeb会議を録画データのまま蓄積していますが、よりAIを活用していくためには、テキストデータ化しておくことをおすすめします。
実際に当社では、仕事のための仕事を効率化するために、社内におけるコミュニケーションデータの蓄積・テキスト化と、AIも利用した横断的な活用を進めています。具体的には、以下のような取り組みを行いました。
- 電話やミーティングでの会話データを基にしたコミュニケーション品質の分析
- タスクやプロジェクト情報を基にした仕事の進捗状況の把握
- アプリケーション横断型での情報検索による社内エキスパートの探索
これらの取り組みについて、気になる方、生産性向上に悩まれている方はぜひお問い合わせください。