
ビル内配線から音声ネットワーク、必要機器まで PBX運用の技術的な仕組みを詳しく解説 前編
2025/04/01
電話回線やインターネット回線の工事にあたっては、従来利用していた電話配線や機器を使うケースも発生します。新たにPBXを導入・更改する際には、これら既存の仕組みに関する知識も重要です。
そこで今回は、ビル内での配線の構成、および音声ネットワークの構成について、どのような設備が利用されており、どのように通信が行われているのか、詳しくご紹介します。
目次
ビル内配線構成
以下では、ビル内の電話回線やインターネット回線の配線について、外部からPCや電話機などの端末までどのような経路で接続されるのか、その構成をご紹介します。
構成要素について
はじめに、ビル内配線を理解する上で必要となる用語について整理します。
用語(構成要素 ) |
内容 |
ビル引き込み |
電話やインターネットなどの通信回線を外部からビル内に導入すること。一般的には地下の埋設配管を通じて行われる。 |
MDF |
メイン配電盤(Main Distribution Frame) 外部から引き込まれたメタル回線での通信を、ビル内の各フロアに分配するための中心的な配電盤。 |
IDF |
中間配電盤(Intermediate Distribution Frame) MDFから各フロアに配線されたメタル回線での通信を、さらに各部屋やオフィスに分配するための配電盤。 |
PT盤 |
PTはPremise Terminationの略称 配電盤の一種で、光ファイバー回線の信号を受け取り、各フロアのPD盤に配線するための盤。 |
PD盤 |
PDはPremise Distributionの略称 配電盤の一種で、PT盤と接続され、フロア内に光ファイバー を分配する。 |
EPS |
エレクトリカル・パワー・シャフト(Electrical Power Shaft) ビル内を縦に貫く配線スペース。電力線や通信線が通される。 |
ビル内配線の経路
ビル内配線は、大きく以下の経路で接続されます。
①ビル引き込み
②MDF・PT盤から各フロアへ
③各フロア内の配線
①ビル引き込み
はじめに、外部からビルへ配線の引き込みを行います。ビルの場合、一般的には埋設した配管を通じ、地下からメタル回線もしくは光ケーブルを引き込みます。
②MDF・PT盤から各フロアへ
引き込まれた線は、メタル回線の場合はMDF、光ファイバー回線の場合はPT盤で最初に引き受けます。地下から引き込みを行う場合、これらは地下に設置されたMDF室に設置されます。 MDFもしくはPT盤より、ジャンパー用端子を経由してEPSと呼ばれる縦の配線スペースを通じ、縦系配管にて各フロアへ配線が送られます。
③各フロア内の配線
各フロアには、メタル回線の場合IDF、光ファイバー回線ならPD盤と呼ばれるディストリビューションボードが設置されています。このボードに繋がる太いケーブルには多芯ケーブルが使用され、各端子で終端されます。 最近の配線方式では、フロアラックが各フロアに設置され、ラックを経由して配線が行われます。光ファイバー回線の場合、ラックがある場合には光パッチパネルを経由して光パッチコードなどでONUと接続し、その後ネットワーク機器に接続します。または、末端まで直接配線を引き、利用する機器が設置される場所まで延長する方法もあります。
PBXを更改する際の注意点
PBXを更改する際には、既存PBXから新しいPBXへ接続変更するために、配線工事が必要となります。また、クラウドPBXへ更改する際には、IPネットワークの新設や増強などで回線引き込み工事も必要となることが多いです。
その際、ビルへの入館申請や管理会社へのMDF室の解錠依頼、穴開け工事、木板の取り付けなど、多くの準備作業が求められることがあります。
また、ビルによっては管理会社が電話サービスを提供しているケースもあります。そちらを利用されているという場合、新しくPBXを導入する際に、まずビル管理会社が提供する電話サービスを解約する必要があります。
企業内音声ネットワーク
次に、企業内で内線通話を実現するために構築される、音声ネットワークの構成についてご紹介します。
従来の企業内音声ネットワークの構成
以下は、従来型の企業内音声ネットワークの概要を俯瞰できる図です。この図は、本社PBXを中心として、どのような回線が接続されているか、また各インターフェースがどのように接続されているか把握することができます。
図の左側には、本社のFAX、一般電話(アナログ電話)、多機能電話、IP電話など、各電話端末が配置されています。また、本社PBXや中継交換機、支店PBXにはSLCやDLCなどの各インターフェースが配置されています。
これらのインターフェースを経由して、最終的に支店のFAXや電話へとつながり、企業内内線通話を実現しています。
覚えておくべきインターフェース種別
以下では、先ほどご紹介した図のうち、特に覚えておきたいインターフェースをご紹介します。
COT
COT(Central Office Trunk)は、一般的なアナログ回線、特にNTT東日本やNTT西日本のアナログ回線を収容するための回路です。
PRIT・BRIT
PRIT(Primary Rate Interface Trunk)とBRIT(Basic Rate Interface Trunk)は、ISDN(Integrated Services Digital Network)のサービスを収容するインターフェースです。BRITはINSネット1500サービス、BRITはINSネット64サービスなどに利用されます。
NTT東西では2024年にISDNのサービスを終了していますが、一部キャリアでは現在も継続提供しています。また、各キャリア提供のIP電話サービスでも宅内GWとPBXを接続するインターフェースとしてPRITやBRITが多く用いられています。
そのため、これらのインターフェースは依然として使用されています。 なお、PRITとBRITは外線インターフェースだけでなく、NTTのデジタル専用線サービス(デジタルアクセス)でも利用されます。
デジタル専用線で接続する場合、一対一の接続構成が基本となります。ただし、VPNサービスによってキャリアがメッシュ型のサービスを提供するケースもあります。
TTC2M
TTC2M(2メガビットデジタル伝送路)は、2Mbpsの速度で通信できる専用線のインターフェースです。古くから利用されており、大手企業ではいまだに使用されていることがあります。
TTC2Mは30チャネルを持ち、時分割多重方式により論理的にチャネルを構成しています。
ODT
アナログのトランクインターフェースであるODTも依然として使用されているケースがあります。ODTの4線式の専用線では、上りと下りの双方向で、同時通話が可能です。
2線式専用線でも双方向同時通話が可能ですが、回路の仕組み上音量の増幅(アンプ)による処理が難しく、市内通話など短距離電話に用いられます。
4線式では、インバンドリンガーを利用し、長距離通話でも音声レベルを一定に保つことができます。インバンドリンガーは、距離に依存して減衰するアナログ音声を増幅回路によって調整し、呼制御信号と音声通話を長距離伝送可能にするための装置です。
中継交換機
専用線網内には、内線端末を収容せず、中継のみを専門に行う中継交換機があります。
このような交換機は、大手企業など大規模な音声ネットワークを構築する際に必要となります。 なお、NTT局内でも中継交換機が動作していましたが、2024年1月1日より開始されたIP網への移行により、廃止されることとなりました。今後、局社内の交換機も撤去され、すべてがIP化されていく見込みです。
今後、企業内の音声ネットワークもIP網に置き換えられていきます。従来の中継交換機による多段接続のネットワークからIP網へと移行することで、より効率的な通信が可能になります。
※参考:NTT東日本「IP網移行の概要」
中継交換機の先では、PRITや他の拠点に多段接続で中継され、各拠点のFAXや内線端末が接続されています。この仕組みにより、本社の内線端末と遠方拠点の内線端末間で、音声の減衰なく通話を行ったり、FAXを送信したりすることができます。
Zoom Phoneに置き換えると
これらの構成をZoom Phoneに置き換えると、下図のように非常にシンプルな構成となります。 中継交換機などは不要となり、すべてネットワーク機器による接続が可能です。内線端末はIP化され、インターネット経由でのメッシュ接続となります。
FAX通信に関しては、トラブルリスク軽減のため、従来利用されてきたPSTN回線を継続する選択肢もあります。また、インターネットFAX化してどこからでもFAX送受信可能にするという選択肢もあります。
まとめ
この記事では、PBXの運用に必要となるビル内配線の仕組みや、音声ネットワークの構築方法についてご紹介しました。PBXの更改を行うにあたって、これらの知識を押さえておくことで、スムーズな対応が可能となります。
当社では、レガシーPBXの仕組みにも精通したプロフェッショナルが在籍しております。レガシーPBXからZoom PhoneをはじめとしたクラウドPBXへの移行をご検討されている方は、お気軽にお声がけください。
なお、本記事の後編として、以下の記事ではPBX運用に必要となる機器についてご紹介しております。ぜひこちらも併せてご覧ください。